オンライントークセッション イベントレポート『研究論文からひも解く「肌と大腸」の深イイお話』

「大腸劣化」対策委員会は2020年7月15日(水)に、近年発表された研究論文から「肌」と「大腸」との深い関わりをひも解き、身近な肌トラブルと腸内細菌との関係、肌と大腸の意外な相関性、そして大腸から肌をケアする方法を紹介するオンライントークセッション『研究論文からひも解く「肌と大腸」の深イイお話』を開催しました。

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西沢氏と小柳先生

「大腸劣化」対策委員会は、現代日本人の健康を脅かしている「大腸劣化」の認知を広げ、対策意識を高めていくことを目的として、2019年7月23日(火)に発足し、大腸に関する医療・学術専門家の知識を集結して大腸の働き・大腸劣化が起きる要因から、改善策までの幅広い情報を発信しています。
腸内細菌に関してここ数年で発表された研究論文を俯瞰すると、「大腸劣化」は消化器系の疾患だけではなく、一見大腸とは遠い存在に思われる「肌」とも深い関わりがあることが少しずつ浮き彫りになってきました。実際に「大腸劣化」のわかりやすい症状である便秘になると、肌荒れに悩まされる方も多いのではないでしょうか。

そこで、心身ともに美しく歳を重ねる“ウェルエイジング”を提唱する美容皮膚科「アオハルクリニック」院長の小柳 衣吏子氏と健康医療ジャーナリストで日経BP総合研究所 客員研究員の西沢 邦浩氏をお招きし、「肌と大腸」の関係を近年の研究論文から、医療現場と健康医療ジャーナリストのそれぞれの立場でひも解き、自粛生活による腸や肌のトラブルとその関連性、プロバイオ・プレバイオが肌トラブルに対して与えるポジティブな効果、さらには大腸から肌をケアする方法などをご紹介いただきました。


<トークセッション内容>
◆自粛生活による大腸への影響 -研究が盛んになる腸内細菌と皮膚-
西沢 邦浩(にしざわ くにひろ) 氏
(健康医療ジャーナリスト/日経BP総合研究所 客員研究員)
この20年で腸内細菌叢が健康に深い関わりがあることがわかってきました。アメリカでも機能性食品業界のキーワードとして「ダイジェスティブウェルネス」、つまり腸をめぐる健康が話題となっており、腸内細菌・腸内フローラというものは世界的なブームになっています。
一時期、腸内細菌の数に関しては様々な議論が起こっていましたが、ここ数年の研究で人間の細胞数(30数兆)と同じくらいの腸内細菌が腸内フローラを形成していることが分かってきました。
大腸と便秘の関係はみなさんご存じかと思います。海外では便秘を放っておくことで死亡リスクが増加するということを発表している研究もあるように、たかが便秘とは侮ることはできません。
ここ最近では「巣ごもり便秘」という言葉も出てきています。運動量が減る、食事に偏りが出る、巣ごもりによってストレスがたまることで便秘が起こりがちになっているのではないかと思います。
4月にウンログさんが発表した新型コロナウイルスによる便秘の実態調査では、自粛生活のストレスによって排便回数が減少した人や、便秘になった人がなんと50%前後いたという結果が出ています。多くの人の腸がよくない状況になっているため、しっかりとケアしてあげる必要があるのではないかと思います。
また、大腸は全身のトラブルにもつながっており、ありとあらゆる疾患に何かしらの相関を持っているといわれています。今日はその中でも「肌トラブル」のお話をしていきたいと思います。実際に腸内細菌叢と皮膚に関する論文数は10年間で6倍になっており、研究も非常に盛んになっています。
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論文数の推移


◆自粛生活による「肌」への影響 -大腸は「全身の健康の要」、
それを映し出す肌は「全身の鑑」-
小柳 衣吏子(こやなぎ えりこ)
(医療法人財団 青輝会 アオハルクリニック 院長)
自粛生活で運動不足やストレスが続くと便秘になったり、様々な体の不調を感じたりした人が多かった、という話がありましたが、肌に関しても例外ではございません。運動不足やストレスというのは、お肌にも大敵と言われます。自粛生活を経て私のクリニックに来る患者さんからも肌に関する相談がたくさんございました。
今年の5月に行われた化粧品会社の調査で、自粛生活でストレスを感じた人のうち、もともと便秘に悩んでいる方の61%の方が便秘が悪化したと回答しており、肌荒れを持っていらっしゃった方は75%もの方が悪化したと回答しています。
実はこの2つは「自粛生活」という共通の要因だけでなく、相互に関係していることが最近わかってきました。私も皮膚と腸の関係に興味を持っておりまして、初診の問診票では便通に関する質問を設けています。
大腸で便が作られ、それが排泄されずにとどまってしまうことが便秘です。腸内環境が悪いと便秘になるし、便秘になるとさらに腸内環境が悪くなるサイクルになってしまいます。便秘の時は、腸内細菌の中でも悪玉菌と言われる菌が活発化してしまい、有害物質(フェノール類など)を産生してしまいます。便がたまってしまうと排泄されるべき有害物質も一緒にたまってしまいます。有害物質は血液を介して全身にいきわたり、あらゆる臓器のトラブルを引き起こします。
肌にも有害物質が届いてしまい、悪影響を及ぼしてしまいます。やはり肌と便秘にも相関関係があります。肌に届いた有害物質はターンオーバーに影響します。それによって肌が乾燥したりくすんだりと、肌荒れの状態を引き起こしますし、ニキビなどの肌トラブルも引き起こすと考えられています。
さきほど西沢さんから「大腸は全身の健康の要」だというお話がありましたが、私は、「肌は全身の鑑」であると考えています。肌のケアは肌だけではなく大腸からケアすることも考えるべきなのです。
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当日の配信画面


◆腸内細菌と肌トラブルの関係 -論文によって明らかになる「腸内細菌と肌」-
西沢 邦浩 氏×小柳 衣吏子 先生
ここからは、腸内細菌と肌の関係について、研究などもご紹介しながら話していきたいと思います。腸内細菌と皮膚に関する論文は増加していますが、一番多いのは皮膚トラブルとのかかわりを見たものです。また、そのトラブルに対してビフィズス菌や乳酸菌などの菌が介入することでどのような効果があるのかという、とても身近な研究もおこなわれています。最近の腸内細菌と皮膚に関わる論文を見てみると、アレルギーやニキビ、乾癬などといった皮膚トラブルと腸に関する研究が多く行われています。
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腸内細菌と皮膚に関する論文のカテゴリごとのまとめ

具体的にいくつかの論文をご紹介します。
・腸内細菌叢を調節することで乾癬・アトピー・ニキビといった疾患の予防や治療に有効(2018年7月「frontiers In Microbiology」)
・アトピー性湿疹を有する乳児の初期腸内細菌叢の多様性低下(2008年「Journal of Allergy and Clinical Immunology」
・アレルギーの発症と腸内細菌叢の構成菌種には関わりがある(2019年「アレルギー・免疫」Vol.26,No.3)
・UVBは実は腸内細菌叢を整える役割をしてくれる(2019年10月「frontiers In Microbiology」)
・「皮膚 - 腸相関」のメカニズムの発見(2018年9月「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」)
・脳と腸と肌との関係性の可能性を示唆(2019年「生物工学」)
・腸内細菌叢がアトピー性皮膚炎の発症・重症化に寄与する可能性を示唆(2018年「Allergy, Asthma & Immunology Research」)
・母乳の細菌群集と乳児の腸内細菌叢の確立および発達との関連を示す(2017年「JAMA Pediatrics」)

以上のように、腸内細菌叢を整えることで、全身の恒常性維持の中で、全身で一番大きな機関である肌の健康維持が期待できるのです。


◆大腸から肌もケアする方法 -「大腸」「腸内細菌」から考える
インナービューティ-
西沢 邦浩 氏×小柳 衣吏子 先生
続いて、菌摂取と肌トラブルの関係に関する論文を見ていきましょう。
・「ビフィズス菌」の妊婦と乳児への投与で、乳児の湿疹・アトピー性皮膚炎の発症頻度を抑制(2014年「Allergology International」)
・アトピー性皮膚炎に対し、プロ・プレバイオの皮疹改善効果や発症予防効果が報告(2013年「臨床免疫・アレルギー科」)
・乳酸菌の投与が成人ニキビの外観を改善(2016年「Beneficial Microbes」)
・ビフィズス菌含有飲料摂取が排便回数の増加と、にきびなどの改善に寄与(2012年「日本農芸化学会」)
・UV照射による水分蒸散量の増加、皮膚水分量の低下がビフィズス菌摂取により抑制(2015年「Beneficial Microbes」)
・ガラクトオリゴ糖含有発酵乳摂取により、皮膚の保湿機能が向上(2013年「Bioscience of Microbiota, Food and Health」)
・プロバイオ+プレバイオ発酵乳により、顔全体の肌状態改善、シワの減少、肌の透明度改善(2016年「Bioscience of Microbiota, Food and Health」)

このように、プロバイオティクスやプレバイオティクスの投与は、アトピー性皮膚炎やニキビをはじめ、肌のシワ・ハリ・つやなど肌の状態を改善させる様々な報告が、国内外でされています。

小柳先生が日常生活で心掛けている、「肌と大腸」のためにしている生活習慣を幾つかご紹介します。
(1) 睡眠はリズム重視:睡眠に代わるものは無く、7~8時間は意識して確保してます。
(2) 食事は食物繊維、野菜と雑穀ご飯:野菜や大麦を定期購入し逃げられないようにしています。
(3) サプリメントは手のひらいっぱい:様々な論文を読んでいると試したくなってしまいます。
(4) 時間がなくてもエクササイズ:今はホットヨガにはまっています。
(5) 隙あらば、ストレス軽減:必ず湯船につかる、おでかけなどは積極的にしています。

食事面では、プレバイオを意識して、ご飯に大麦を混ぜて炊いています。また、おくらやめかぶ、みそ汁にはわかめや玉ねぎなどでプレバイオを行っています。プロバイオとしてはヨーグルトや納豆、みそ汁を意識して食べています。ヨーグルトは大好きなので、いっぱいいただいてます。

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小柳先生の朝食
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小柳先生の夕食
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加齢によるビフィズス菌の減少


いまだにビフィズス菌は乳酸菌の仲間だと思われている方がいるかと思いますが、そもそも乳酸菌は空気があるところにもたくさんおり、小腸に多い菌です。ビフィズス菌は空気が大嫌いなので大腸の中にいる菌になります。また作り出すものにも違いがあり、乳酸菌は乳酸を作り出しますが、ビフィズス菌は乳酸以外に酢酸、つまり短鎖脂肪酸を作り出します。

この短鎖脂肪酸は、酪酸や酢酸、プロピオン酸などの総称で、悪玉菌の働きを抑制したり、抗炎症作用を発揮したり、腸壁のエネルギー源となります。そして痩せ体質にも重要なのです。
そして、短鎖脂肪酸は肌に届く有害物質の量も抑えていたり、肌自体の改善に役立っていたりしている可能性もあるのです。
またビフィズス菌は、赤ちゃんの腸に多いですが、様々な要因によって減っていってしまいます。赤ちゃんの腸に多い理由は、母乳に含まれるヒトオリゴ糖はビフィズス菌しか食べることができないからです。ビフィズス菌が増えることで守りの堅い環境を作っていく、それが母乳の役割でもあり、そして赤ちゃんが腸を整えていく上での一番重要なプロセスなのです。

以上をふまえ、インナービューティーの観点から意識してもらいたい3つのことを紹介します。
1つ目は大腸と肌について、漠然と感じていた関連性にも多くの論文が出てきて、科学的な裏付けが存在していること、2つ目は、腸内環境を改善するだけの腸活だけではなく、その先の肌や全身の健康までを意識して取り組んでほしい、3つ目は、普段の生活習慣を振り返ってプロバイオティクス、プレバイオティクスを含むシンバイオティクスを意識した食生活を習慣化してほしいです。大腸は全身の健康の要。そのため、肌のケアは大腸から行いましょう。


【登壇者情報】
小柳 衣吏子(こやなぎ えりこ)
医療法人財団 青輝会 アオハルクリニック 院長
順天堂大学医学部1998年卒業。順天堂大学皮膚科学教室非常勤助教、日本皮膚科学会認定皮膚科 専門医、日本抗加齢医学会評議員。著書『美肌の王道(日経BP社)』。2011年から六本木の美容皮膚科「アオハルクリニック」院長(現在に至る)。美容皮膚科の草分けのひとり。治療コンセプトに『ウェルエイジング(Well Aging)』を掲げ、単に加齢に抗うのではなくよりよく歳を重ねる「王道」を、患者とともに歩み続けることを信念としている。
「見た目の美しさにはカラダの中の健康が欠かせない」と訴え、男性・女性問わず、お肌の健康と美しさの改善・維持・向上を真剣に求める方々から、多くの共感をあつめている。
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小柳先生

西沢 邦浩(にしざわ くにひろ)
健康医療ジャーナリスト/日経BP総合研究所 客員研究員
早稲田大学卒業。小学館を経て、1991年日経BP入社。1998年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。2005年より同誌編集長。2008年「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、2010年まで編集長。2016年まで日経BP総合研究所主席研究員。2018年株式会社サルタ・プレスを設立し、代表取締役に。日経BPでは引き続き、客員研究員を務める。同志社大学生命医科学部嘱託講師、ウエルネスフード推進協会評議員、日本腎臓財団評議員などを務める。著書に「日本人のための科学的に正しい食事術」(著)、「ヒットする!食品の機能性マーケティング(共著)」など。
画像9: https://www.atpress.ne.jp/releases/219865/LL_img_219865_9.jpg
西沢氏


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